コラム「優しさ溢れる魅力的な子ども(後編)」|幼児教室探しの『幼児教室どっとこむ』

−優しさ溢れる魅力的な子ども(後編)−

私は、以前、ある私立中学の生徒達のボランティアカウンセラーをお引き受けしていた時期がありました。カウンセリングの専門家としての立場ではなく、息子を持つ母親、その学校の独特の雰囲気をわかっている人、という立場として、12歳から15歳での男の子達の相談を受けました。そして、とてもとても胸を痛めたのは、10人の相談を受けたとき、見事に10人全員が同じフレーズを使ったことでした。
それは…「どうせお母さんは、ぼくの言うことは聞いてくれない!」でした。そして、話しを聞き進めていくと、「お母さんは、昔から、ずっとぼくの話しは真剣に聞いてはくれない。」と繰り返して言うのです。
世の中では、優秀と言われる中学生達です。過酷な中学受験を経て、その学校に入学した子達を持つお母様方は、きっと鼻高々だったことでしょう。

しかし、入学後わずか1年足らずで、子ども達は母親に不満を持ち始めます。「お母さんは、ぼくの話しを聞いてくれない。」「お母さんは、自分の都合ばかりをぼくに押しつける。」「お母さんは、本当は自分のことしか考えていない。」「お母さんは、ぼくをわかろうとしてくれない。」「ぼくがお母さんに文句を言うと、必ず、ママは涙声で、こんなにママは一生懸命あなたを愛しているのに!と、歯の浮くようなことを、恩着せがましく言う。」etc.…
子ども達が訴えた、そういう言葉を発しているときの母親の様子を思い描き、私も一母として、胸が痛みました。

そして、私は痛感したのでした。私を相手に、一生懸命に訴える、思春期の、少し逞しい体つきになった男の子達は、きっと6年前、7年前の幼稚園児の頃に、大好きなママに向かって「ねえ、ママ、ボクね…」と笑顔で話していたのだろうなあ、と。 そして、そのうち何度かは、「あとで聞くね!」と声をかけられ、長い長い待ちぼうけをくったあげく、「ああ、またママはぼくのお話しを聞いてくれなかった…」と、悲しい気持ちで眠りについたのだろうなあ…中学生になった彼らのボタンは、完全にかけ違ったままで閉められてしまい、容易に着替えられなくなってしまっている…もし、4・5・6歳児の頃に、「あとでね!」のお約束を、きちんとママ達が守っていてあげれば、彼らはきっと、「どうせママは聞いてくれない…」と、投げやりに、他人の私に言わなくてもすむ毎日になっていたでしょう。

「あとで話しを聞く、聞かない」というそのことを、ピンポイントで論じているのではありません。私が声を大にして言いたいことは…「あとでね!」という言葉を安易に発しておきながら、真剣に聞いてやらなきゃ、聞いてやろう!聞いてあげたい!と思わなかった「母親の意識」を、ここでは問題にしているのです!
彼らが意固地になって、母親に逆らい、母親の気に入らないことをし、「うるせー!」と罵声を浴びせている姿が、とても悲しげに見えました。ほとんどの子ども達は、心の底で叫んでいたのです。大好きなお母さん、昔から、大好きだったお母さん、「ぼくの話しを真剣に聞いてよ!」「ぼくのことをわかろうとして欲しいんだよ!」と。

でも、ずっとずっと以前から、かけ違ってきたボタンは…すぐには元にはもどらないのです。4・5・6歳の子ども達に、もし、上記の中学生と同じだけの言語力、表現力が備わっていたとしたら?
あなたのお子様は、この中学生と同じことは絶対に言わない!という自信はありますか?「あとでね!」を毎日のように繰り返し、自分の都合、自分の気分の良い時だけ「今日は幼稚園で何をしたの?」と満面の笑顔でたずねるママ。我が子が自分の思い通りにならないと、「ママは、こんなに一生懸命に○○ちゃんのことを思っているのに…」と口走り、悲劇のヒロインになるママ。あなたは、誓ってそんなことはしていないでしょうか?

「優しさ」や「人の痛みがわかる」ということは、我が事と同じ思い入れを持って、相手のことを考える心の広さや、相手のことを必死に愛そうとする行為の上にしか成り立たない、尊く、胸が痛くなるほど辛い行為…私はそう考えています。ママが教えた通り、電車でお年寄りに席を譲る子ども。ステキですね。こういう善行は、それが良いことだとわかっていても、実行するには勇気のいるものです。
けれど、「優しさ」や「人の痛みがわかる」とは、こういう美しい行為だけではなく、もっともっと、人柄の底に根付き、その人の人格の一部となって、静かに宿るもの…
ここ5、6年、私は少し、気にかかっていることがあります。それは、お母様方が、昔に比べて「子ども化」していっているように思えることです。たとえば…

1.我が子が、自分の思い通りや、イメージ通りにいかないと、すぐに落ち込んだり、ショックを受けたりする。
2.育児で何か壁にぶちあたると、すぐに人に頼ろうとする。
3.何か疑問に感じることがあると、自分でしっかりと考える前に、すぐに人にたずねる。
4.人に教えてもらったことを、じっくりと聞き、理解しようと努める前に、どんどんノート等に記録して、記録したことで安心する。
5.次に疑問が湧くと、またすぐにたずね、記録して…を繰り返す。
6.自分がどうすれば良いか?を熟考する前に「私はどうしたら良いのですか?」と指示を仰ぐ。

これは、目新しいことを前にした時、すぐに「なんで?どうして?」をひとつの「癖」のように繰り返す子どもに似ているように思います。こういう子ども達は、何事にも興味津々のように見えますが、実際には「どうして?」とたずねるだけで、こちらが一生懸命に説明をしているときには熱心に聞き、理解しようとはしないものです。
まさに、質問ばかりで、安直に答えを求め、指示を仰ぐママは、これに似ています。人に教えを乞うことも、頼ることも、とても大切なことです。けれど、それ以上に大切なことは、どんなときも、どんなことも、まずはしっかりと自分自身で受け止め、自分の頭で考え、そして、自分で決めよう、判断しよう、という姿勢でいることだと思います。

立派なママ、理想のママ、なんていないのです。誰もが、そんなすばらしいお母さんを目指しながら、毎日試行錯誤し、右往左往しながら、子育てに孤軍奮闘しているのです。そういう必死の毎日を過ごすからこそ、お母様自身が「優しい」「人の痛みのわかる」人になり、その母親の姿を見て育つ子ども達が、自然と優しくて人を決して傷つけない子どもに成長していくのだと私は考えています。
「優しい子ども」「人の痛みのわかる子ども」に育てるためのスキルなど、そんな安直なものはあるわけがありません。
決して子どもに迎合することなく、親として毅然とした態度を持って関わり、親子関係を築きながら、我が子に常に心を向けていくこと…そんな親としての基本の姿勢が、親であるあなたを心優しく豊かにしていくでしょう。
そして、そのお母様の心の豊かさが、我が子を優しさ溢れる魅力的な子どもに導いていくに違いありません。

幼児教室マナーズ
南坊 まどか先生

 → 優しさ溢れる魅力的な子ども(前編)

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